史上最悪のエアショー

2002年7月27日、ウクライナ。
同国空軍のSu-27UBフランカーがデモンストレーションフライト中に何らかの要因で墜落、観客の中に突っ込むと言う最悪の事故が発生し、死者83人、負傷者200人以上という。旧西ドイツラムシュタイン基地でおこなわれた、イタリア空軍アクロバット飛行隊フレッチェトリコローリの空中衝突事故での死者70人を超える、世界史上最悪のエアショーとなってしまいました。
私はちょうどこの日、翌日28日の松島航空基地でのエアショーを見学するため、基地周辺に住む友人を頼りに宮城県入りしておりました。翌日にエアショーを控えていて、この史上最悪のニュースを聞いたときには大いに驚愕しました。

同国のSu-27UBは低速での急降下中に一旋転を行い(ここまでは制御されていると思われる)、リカバリーするために機首上げを行いましたが、明らかに速度エネルギーが不足しており、急激な機首上げのため臨界迎え角を越えて失速を引き起こしました。
降下速度が弱まった祭に不自然な左ロールが行われたのも、失速のためスピンに入り制御を逸脱してしまったのではないでしょうか。もしコントロールが可能であったならば観客区域に突っ込む左側にロールせず、右ロールを実行していたと思われます。

そして左翼端を駐機中の航空機に接触させて完全なアンコントロールとなり、そのまま左翼から地面へ激突(ほぼ同時にクルーは脱出)、機体は炎上しつつ大きく横転し、大爆発を引き起こしました。

何故リカバリーに十分な速度エネルギー(対気速度)とポテンシャルエネルギー(高度)が確保できなかったのか。事故の直接的な要因を探る最大の焦点はここにあります。パイロットによる人為的過失が原因であるかもしれません。それとも観客の証言である「エンジン音が聞こえなかった」という事実を裏付けるデッドエンジンによるものかもしれません。
原因は調査が進むにつれ明らかになることでしょう。


日本の航空自衛隊、欧米諸国の空軍のような先進国の航空軍と、ウクライナを初めとするロシアや中国、インド(これらの国は皆Su-27を運用)等発展途上国や経済的な困難を抱える国の航空軍との決定的な違いは何か?

それは規模に対する予算が不適切であるということです。
パイロットの項目でも同じ事を書きましたが、パイロット一人当たりの訓練飛行時間は1/4以下ではお話になりません。
当然機体の保守整備にも大きな影響を及ぼしています。

極端な例になりますが、発展途上国の中には、磨耗による消耗を抑えるため着陸時のブレーキの使用を制限したり、滑走路上で完全にエンジンを停止しあとはタグにより格納庫までトーイングするといった考えられないほど、お粗末な運用を行っている国もあります。
また、インド空軍ではここ数年間の間に100機ものMiG-21が墜落しております。2002年にも、アパートに突っ込む大事故をおこしました。

ウクライナが実際このような運用を行っているかは知りませんが、ソ連崩壊により独立した際にSu-27やMiG-29を多く受け継いでるにも関わらず、整備に必要なスペアを一切購入せずにいたとされています。結果、多くの「共食い」が発生し部品取りによって飛べなくなった機体も少なからずあることでしょう。
このような悪循環を断ち切るためウクライナはSu-27やMiG-29戦闘機の中古販売に力を入れております。中古とはいえ、戦闘機は10〜20億円にもなる金の卵です。外貨を大量に稼ぐ手段としては最も効果的であるといえます。


そして、この戦闘機の売り込みが今回の事故の間接的要因の一つに直結しています。
エアショーでは戦闘機の飛行性能をフルに発揮し、一般人にその性能を知らすことの出来るチャンスです。そして億円単位の商機の場でもあります。
日本は国産戦闘機を輸出しませんから実感できませんが…もっとも一機一億ドルの世界一高価なF-2支援戦闘機なんて性能は素晴らしくともどこの国も買いませんでしょうが。多くのエアショーは自国空軍の広報活動とは別に戦闘機の売り込みを兼ねていることが多々あります。

エアショーでの飛行計画は万が一事故が発生しても観客に被害が及ぶ可能性を抑えなければならないのに、Su-27の高性能さをエキサイティングな機動飛行により誇示すべく、規則を侵し飛行計画を立てた事が、事故の被害を拡大させました。

「儲け」を追求するがあまり、結果的に同国空軍の権威を大きく失墜させ、さらにはSu-27フランカーの信頼までも大きく失われるという大失態を演じてしまいました。これではスピード違反で自爆事故をおこすのとなんらかわりがありません。


しかし、この大事故において唯一高い信頼性を実証したモノもあります。何のことはありません。ズヴェズダ設計局K-36DM射出座席です。1999年パリエアショーに続き、またしても危機的状況から二人のクルーを無事に生還させました。
この大惨事にパイロットだけ脱出したのはけしからん!…との見方をする方も少なくないと思われます。私自身もニュース速報を聞いた時はそう思いました。しかしテレビで実際の事故の様子を見て考えを改めなおしました。
テレビを見る限りでは、パイロットは地上への激突寸前に脱出していたのです。仮に脱出していなくとも観客に突っ込んでいた事でしょう。それでも脱出するなと言うならば死者数が二人増えていたとだけである推測できます。

脱出したことと観客区域に突っ込んだことは何の因果関係もありません。クルーが助かったのは、K-36DM射出座席の素晴らしき性能の賜物です。


様々な要因が重なって最悪の事態を招いた今回の事故、しかし全ての根本的な原因は「予算不足」であったことには間違いありません。
なお、国防省大臣は辞任、空軍指令、航空群指令は解任されたうえで拘束、二人のクルーの身柄も拘束されました。そして翌々日7月29日には国をあげての追悼式が行われました。



最後に。このような大惨事が二度と起こらないことを祈って。



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